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鯨井 恵理子 |
十日町市南西部、薬湯で有名な松之山には「奇祭」があります。 奇祭(きさい)とは、独特の習俗を持った風変りなお祭り、とのこと。 カワリモノ大好き!の鯨井がレポートいたします。
この奇祭、名を「むこ投げすみ塗り」と申します。 読んで字のごとく、新婚のお婿さんが雪上に投げられ、お祭りの参加者が顔に炭をぬられるお祭りです。
まずは、むこ投げ。
山あいに響く法螺貝の音色がお祭りはじまりの合図。 山上の薬師堂へ、前年に結婚をした婿が担がれてゆきます。 あの仏堂の前から婿は投げられ、嫁は着地点で夫を待つのです。
ご覧の通り、この山かなりの急斜面。 4名の担ぎ手を松之山の方々が後ろから支え、共に登ります。一歩ずつ雪道を踏みしめながら。 そして人上の婿、明るく誇らしくこれから投げられる山上を見すえておられました。
婿が投げられる時が近づいてまいりました。 婿を投げる準備が着々と進む中、松之山のおじいちゃんが名調子で司会進行いたします。何にも動じない、その穏やかな口調のいとおしいこと。 再度ひびく法螺貝を合図に、さぁ婿、投げられる時! せーの!で空を舞い、雪にまみれながら斜面を転がり、嫁のもとへたどり着きました!
わきあがる笑いに拍手。 ひと仕事終えた婿達をねぎらうあたたかな空気に、ふと後ろを振りむくと、山が微笑んでいるような優しい景色を見せてくれました。
さて、場所をすみ塗り会場へ移動しましてひと神事。 今回参加されたご夫妻が祠に向かい、神主様より祝詞をいただきます。
この祠、なんと雪でできています。 そこで思った、ああ、全国ひと並べにされたとき「独特だね」と呼ばれるカタチも、ここに住む人からすれば、豪雪厳冬の中で新婚を祝い神様に祈る気持ちを、自分たちの生活にあるものであらわした「当たり前」のカタチなのだ。 ムコ投げの儀式にしても、その手順には人が生きていく理想があらわされているようでした。投げられるという苦難に向かう婿、それを支える人々は友人であり年長者であり、彼らの仕事をあたたかく見送る沿道の人々、そして苦難の先には嫁が待っている。そんな人々を厳しくも優しく見守る山々。
「移住?なんで自分からそんな不便なところへ?」言われることがあります移住2週間目。でも不便さの中にこそ人の知恵が生きていて、見えてくるものが沢山ある。
そんな物思ったところでミカンまき、開始です!
写真左上、小さなオレンジの点は見えますでしょうか? ミカンがまかれています!節分の豆のように! 「福」と書かれたミカンをつかめば大当り!福袋と引き換えられます。 本性のあらわれる楽しいお時間、福をつかみ取るのだ!!
この勢いですみ塗りへ
小正月のこの頃、十日町の各地ではどんと焼きが行われます。 どんと焼きとは、木や藁で組んだやぐらを、正月飾りや書初めで飾り付けて燃やし、無病息災を祈る伝統行事です。 高さはどのくらいだろう、小ぶりの木を見上げるくらいの藁やぐら、てっぺんにはダルマ。火をつけるは本日の主役、新婚ご夫婦が共同作業にて。
あんなに高かった櫓がみるみる燃えていく圧巻。爆ぜて舞い上がる火の粉が快晴の青空によく映えておりました。 「火は穢れを浄め新しい命を生み出す」聞いたことがありますが、まさにその景色。 少しひりひりするような熱風は、昨年への慰めと決別、そして新しい一年への後押しをしてくれるようでした。
火の収まってきた頃合いから、すみ塗りの始まりです。 どんと焼きで出来上がった藁の燃えカスを、松之山の方々が雪と一緒に手でもんで、炭にいたします。 あとはこれを・・・塗るのです!参加者の顔に!!
もうここからは無礼講。 炭を塗られた黒い顔同士、初対面もなにもありません。 「おめでとうございます~!」祝いながらほっぺに炭を塗り、顔を見合わせ大爆笑!この空気感、たまりません!
「コミュニケーション」昨今よく聞く言葉です。そのために頭をひねらせ、顔をしかめて方策を練るほどどうやら不足しているらしい。 うん、みんな炭を塗りあっちゃえばいいんじゃないかな! どうやらここは、生活の中にコミュニケーションの仕掛けが自然と組み込まれているらしい。
そしてそして
さいのかみ(どんと焼きの別名)は万能であらせられるのです。 名残火でするめも焼ければ、ぬる燗もできちゃう。 のんべいの皆さま、このコンビのお味、ご想像ください! そして来年は自身で体験されることを強くおすすめいたします(笑)
そうそう来年の新婚夫婦募集が開始されているようです。 http://www.matsunoyama.com/modules/info/index.php?content_id=8 11月末が締め切りとのこと。 今から相手を探しても間に合うんじゃないかな 希望にあふれた2016年スタートです!
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